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”ここが人間界かぁ・・・”
青空に浮かぶ小さな光が呟く。
“神様が言うには、私がいた所に近いってことだけど・・・・やっぱり覚えてない、か・・・”
所狭しと建物が並び、山々が見える。
大都市でもなく田舎でもなく、どこにでもある風景だ。
“とにかく契約してくれる人間を探さないと。もっと下に降りてみようっと”
そして小さな光は、街へと入った。
どこにでもある普通の高校。
そこに通っている、どこにでもいる普通の学生。
「―だから、別に帰っても問題ない、と」
「どうしてそういう事になるんだ、那智」
今まさに帰ろうとしている久遠那智を、友人の桜木彼方が問いただす。
「俺はどこにでもいる普通の学生。普通の学生なら部活をサボる日だってある。ということで」
「待て待て待て」
帰ろうと背を向けた那智を、肩を掴んで引き止める。
「別にサボるのはいいけどさ。
今日は、先生が新しい原石を見せるから全員出席するようにって言ってたろ?」
俺が所属しているのは、地学部。
といっても、地学を学んでいるのではない。
担当の男の先生がやたらと宝石とか原石が好きで、主にそれらを学んでいる。
雑談も多いし、ある意味やりたい放題。
入学時に入部してから2年半経ったが、ずっとそんな調子である。
宝石の原石とか興味があったから入ったし、もちろん楽しいといえば楽しいが・・・
「先生が全員集めた日は、絶っっっ対にロクでもない事が起きる・・・」
「なに女々しいこと言ってんだよ」
「いやホントなんだ。例えば―」
「あーもういいって。分かったから早く帰れ」
もう何を言ってもダメだ、ということを察したのか、諦め顔で那智を見送る。
もしかしたら彼方は、俺が帰りたくてでたらめな事を言っていると思っているかもしれない。
それでもいい。何を言われてもいい。
ま、多くは語らず。
足早に校舎から出て、見慣れた道を行く。
高校から家までは・・・・・・・・徒歩30分。
いつもなら自転車で通っているが、例の「ロクでもない事」の一つ、自転車が壊れるという災難に遭い、
徒歩で通うしかないのだ。
変わりのない風景、そして生活。
毎日がその繰り返しで、大きな変化なんてないし、望んでもいない。
高校から、歩いて10分ぐらいだろうか。
そこには小さな丘があり、通り道だからたまに寄っていくことがある。
どこからか風が吹き、そこにいると、頭の中がリセットされるような感覚になる。
今日も、何となく来てみた。
やはり風が吹いていて、その気持ちよさに目を閉じる。
“ ”
!?
何かが聞こえた?
そう思った瞬間、意識せずハッと目を開けていた。
今、風と一緒に何かが・・・声らしきものが聞こえた気がした。
周りには誰一人いない。
風に乗って遠くの声が聞こえたのかもしれない。
そう判断する前に、今度ははっきりと聞こえた。
“ねぇ、聞こえてるの?アナタ、私の声が聞こえるの?”
遠くの声が聞こえたというものではない事は、その言葉の鮮明さから理解できた。
だけどどこから?
周りには誰もいないのに、どこから声が聞こえてくるというのだ。
きょろきょろと見回しているうちに、また声が聞こえた。
“空を見て。私が見える?”
空?
人が空を飛んでいるとでもいうのか?
半信半疑ながらも、空を見上げた。
今日も雲一つない晴天なり。
ただ青い空が広がるばかり・・・・・?
光っている何かが、すごい速さで俺の方にやってくる。
「何だあれ!?」
そう、声に出したのがマズかった。
見えていると意思表示をしてしまった。
“よかった。やっぱり見えてるんだね!”
小さな光は、俺の顔の前に来るといきなりそう言った。
そしてその直後、ポンッと音を立て、姿を変えた。
その姿はまるで・・・・
「妖精・・・?」
驚きのあまり、思ったことがすぐに口に出た。
腰まで伸びた茶髪。
翠色の瞳。
服のことはよく分からないが、ワンピースのようなものを着ていた。
体は手のひらサイズで、羽が生えた小さな人間のようだ。
そう、空想の世界でよく見る、あの妖精の姿だった。
“はい正解!よかった見える人がいて”
俺は夢を見ているのか?
妖精なんて空想上の生き物じゃないか。
そんなものがいてたまるか。というかいるはずがない。
俺の頭は、とうとうおかしくなったのか!?
“あの~・・・もしもーし”
妖精・・・というか、そいつはおずおずと俺の顔を覗いてきた。
“いきなりで戸惑ってるかもしれないけど、私の話を聞い―・・・ん?”
むぎゅっ。
・・・・・掴める。
これは、現実だ。
妖精は何だか楽しげに笑っている。
“ねぇー、夢じゃないって分かった?”
真実がこの手の中にあるのに、なかなか信じることが出来なかった。
どこにでもある普通の高校。
そこに通っている、どこにでもいる普通の学生。
そんな俺は・・・今日で終わりのようだ。
というわけで、一話目をアップしました。
タイトルは第1章となっていますが、大きいまとまりとしての“章”ではないので・・・って、意味分かるかな??
まぁ・・・いいや(ぇ)
妖精が登場!
彼女の実態と彼【那智】の悲劇の始まりは第2章で(笑)
次回予告。
気づいた時、僕はもう“人”ではなかった。
―彼と彼女を結んだのは、満開に咲いた月だった―
感情がない人・・・それは自分だと思う彼。
感情がない人・・・そんな人はいないと思う彼女。
意見の違う彼らを、ただ、月が見つめている。
この小説のキーワード(?)は“感情”と“月”かな?
お楽しみにー
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自己満足なサイト万歳(笑)